Joe Albany『EPIPHANY』 | kumac's Jazz

Joe Albany『EPIPHANY』

 ジョー・オーバニーのソロピアノアルバムである。録音は1976年1月6日に自宅で行われている。多分、私の再生装置が壊れていなければだが、モノラル録音と思われ、音質はあまり良くない。どちらかと言えば記録として考えた方が良いと思う。最初からレコードとして発売されることが決まって行われた録音とは思えない。しかし、それでも十分にジョー・オーバニーの癖のあるピアノを楽しめるし、曲に対する驚くほど素直で情感豊かな演奏を聴くことができる点、目から鱗と言ってもよいほど素敵な作品です。

 

 この作品に収められている曲は全曲がビバップ時代に演奏された親しみのある曲である。ソロ演奏なので、当然に曲のテーマとなるメロディから自分で拍を定めて作り上げているわけで、これまでほとんどバンドの中で、最低限ベースとドラムバックでリズムを刻む中での演奏の演奏と比べて聴くと、演奏の流れに然程の破綻がない。そこがこの作品の聴き所なのだと kumac は確信する。

 

 7曲目「ブルーバード」を聴くとよくわかるのだが、元々持っている曲の旋律もあるのですが、リズムの取り方がラグタイム風であり、この点セロニアス・モンクにも通じるし、アドリブソロになると激しく音を繰り出してくる。この激しさは、ビーバップの特徴であるとkumac が思っているソロにおける感情の爆発そのものである。パーカーのソロに匹敵すスリル感がある。思わず微笑んでしまうのです。

 

 ビーバップの時代から演奏しているジャズメンは、コードに忠実であることはもちろんだが、曲の持つ情感を含んだメロディーにも忠実で、アドリブソロに入っても曲を唄っている印象がある。感情が乗ってきて、フレーズがある曲線を逸脱して飛んでしまうことはあるにせよ、楽しんでいるという表現でいいと思うけれど、その世界に没入できている。コニッツにしても、あの独特な抑揚のないメロディラインにせよ、曲の持つメロディーを自由に奏でている点での聴き所がある。

 

 遊園地のアトラクションのジェットコースターのような印象を持つ曲「スロー・ブルース・イン・F」(11曲目)を聴いていると、曲に酔っているジョー・オーバニーが見えてくる。以外とカーブが緩やかなのですね。それに比べて次の12曲目「オー・プリヴァーブ」は急カーブの連続で速度が上がり、手数もいつもの数倍あり、その尾を引く流星のような鮮やかな音の流れに引き込まれてしまう。あっという間のたった1分55秒の演奏ですが、永遠を感じさせる凄みがあります。激しい演奏なのでしょうが(聴いている私もそう思いますが)、演奏後に疲れた、いややり終えたという安堵のため息が聞こえます。そして13曲目「スイート・アンド・ローリー」では、スケールの大きな演奏を披露してくれています。両手の指をめいいっぱいに使い、旋律を奏で、興が乗ったところでうめき声を上げて、さらに時として金属片がキラリと光るタッチを淹れて、そう宇宙からキラキラとした粉雪が降ってくるようなイメージが浮かぶ曲です。

 

 最後に、ジョー・オーバニーの声が録音されています。英語がわからない kumac には何を言っているのか理解不能ですが、曲の録音日時のデータを吹き込んでいるらしい印象は持ちます。

 

 最後に、この CD の杉田宏樹氏のライナーノーツは、ジョー・オーバニーの音楽家としての経歴を詳しく書いています。ジョー・オーバニーの音源を辿りたい方には道しるべになるものと、ありがたく読ませていただきました。楽しみが増えたかな。次、何を聞こうかなと思えるのはとても幸福です。