Lee Konit『 in Europe '56. Paris (Unreleased) ..』 | kumac's Jazz

Lee Konit『 in Europe '56. Paris (Unreleased) ..』

 正式タイトルは『Lee Konitz in Europe '56. Paris (Unreleased) And Köln Sessions』です。

 

 リー・コニッツの1956年1月にパリとケルンで行われた3つのセッションを収めた作品です。このブログで多分、最も多く取り上げたミュージシャンがリー・コニッツだと思います。kumac がジャズを聴かずに怠けている間に彼は新型コロナウイルスに感染して、私にとってはあっけなくお亡くなりになりました。年齢も年齢だったので、それほど大きなショックはありませんでしたが、ジャズ・ジャイアントがまた一人この世から居なくなってしまったという、寂しさがあります。

 

 同時代を生き、ライブを直接に聴けたことは何よりも、kumac 自身への、kumc自身の生きた証という置き土産ですね。

 

 この時期(このアルバムが録音された1956年初頭)は、1955年6月に『Lee Konitz With Warne Marsh』が録音され、1956年9月に『Inside Hi-fi』が録音された間の時期です。コニッツの演奏は、この時期はトリスターノの音楽から自由になろうとして模索していた時期とも思えます。自分が自由にインプロヴィゼーションができるスタイルを探し続けていた(最晩年までもそうですが)わけで、楽曲に対するアプローチがその時々のセッションで変わります。その変化の一番の要因は、共演者との音の関係だと思います。

 

 この作品でのは、最初の3曲、パリでの録音が Lee Konitz(as)、Bobby Jaspar(ts)、 Lars Gullin(bs)、Rene Urtregerp(p)、Sacha Distel(g)、Pierre Michelot(b)、Christian Garros(d)のメンバーです。ここでは、パーカーの作品( 「Now's the Time」「 Half Nelson」)を2曲とトリスターノの作品1曲(「Ablution」)演奏をしています。ここでのパーカーの曲を演奏しているということもあるのかもしれませんが、コニッツはどことなく楽しそうに(演奏が生き生きとしている)演奏をしています。。それに、ソロをメンバーがほぼ同じウエイトで行っています。パーカーの曲はメロディにメリハリがあり、生き生きしているので演奏全体にまとまりがでるのかなと思います。そいいう時には、コニッツの演奏は自由度を増しますし、自由度が増すと音のキレが鋭くなります。この傾向は、『Motion』 以降となると少し違ってきますが(キレ方が違う)、カミソリ的な演奏を期待する方には、それなりに裏切らないかなと思います。「Now's the Time」の演奏が絶品です。

 

 4曲目以降はケルンでの録音です。パリが1956年1月16日、ケルンが同年1月17日、21日の録音です。ケルンでの演奏のメンバーは Lee Konitz(as)、Hans Koller(ts)、Lars Gullin・Willi Sanner(bs)、Roland Kovac(p)、Johnny Fischer(b)、Rudi Sehring・Karl Sanner(d)です。3曲演奏をしていますが、コニッツやトリスターノ、パーカーの曲はありません。そしていずれもがスローテンポのメローな曲です。さらに、ソロはほとんどコニッツが一人で担っています。どうしてこいうセッションになったのかわかりませんが、作曲がヨーロッパのミュージシャンのものなので、彼らが自分のこんな曲をコニッツに演奏して欲しくてこういうスローテンポの演奏になったのかなと推測できます。コニッツのスローバラードはなかなか聴けないので興味のある方は聴く価値はありそうです。6曲目「Late Summer」でのソロはしっとりとした演奏でいい感じです。

 

 7曲目以降は、上記のケルンの同じメンバーでのセッションで、ここではトリスターノとコニッツの共作曲が1曲、トリスターノの曲が1曲、Roland Kovac の曲が2曲、最後にスタンダードナンバーの「I'm Getting Sentimental Over You」が取り上げられています。演奏がフェードインで始まるものやフェードアウトで終わるものなど切り貼りの録音になっているものがありますが、7曲目トリスターノとコニッツの共作の曲「En Rodage」ではコニッツがバリトンサックスを吹いています。ソロはコニッツのバリトンサックスのソロから入り、続くソロが Lars Gullin のバリトンサックスと、バリトンサックスのソロが続きます。ここでの互いの演奏の比較は面白いです。コニッツはかなり緩急を使います。それに、音域も広いです。さらに唄うように演奏をします。どこか間延びした感があるのですが、コニッツの特徴がとてもよく聞き取れます。続く、 Lars Gullin のソロは基本に忠実という感じですかね。リズムに忠実に拍を刻んで、フレーズをなめらかに回します。気持ちよい演奏ですが、新鮮味はさほど感じられません。8曲目「Lee-La-Lu」はミデアムテンポのブルージーな曲です。題名に Lee と付くので、作曲した Roland Kovac がコニッツのために作曲したものかもしれません。ここでのコニッツの演奏は秀逸です。とてもノリノリでかつ慎重で大胆、スリル感もあり、とてもうれしくなる演奏です。多分、この作品の中で一番よいコニッツが聴けます。どこか、『Motion』を彷彿させる演奏です。 Roland Kovac のピアノソロも素敵です。

 

 この時期、アメリカではハードバップが全盛でコニッツの出番はあまりなく、自分がやりたい音楽はヨーロッパに行かないと自由にできなかったのかもしれません。

 

 最後に、このCDにはボーナストラックとして1月10日と1月14日の録音の曲が一曲ずつ収められています。どうしてボーナストラックとして納められたのかは、コニッツの演奏の良さがあるからなのでしょうね。各人のソロの後に観客の拍手の音が入りますから、どちらもライブ録音です。