Aquiles Navarro『TOTAL IMPROVISACIÓN』 | kumac's Jazz

Aquiles Navarro『TOTAL IMPROVISACIÓN』

 昨日に続き2日連続の更新です。

 

 それには訳があります。昨日の自分の記事をツイートしたら、当の本人の Aquiles Navarro が<いいね>をしてくれたので、彼のTwitterをフォローしたところ、このストリーミング配信の発売されたばかり(発売は2020年12月28日)に出くわしたという訳です。この縁を無駄にはできないなと思った次第です。

 

 Aquiles Navarro のトランペット演奏自体は、kumac にとってはまだ未知数です。テクニックがあるともまだ思えないし、これまでのトランペットの管楽器としての演奏スタイルをなにか凌駕しているとも思えないし、どう取り込んで良いのかわかりません。それでいて Aquiles Navarro の音楽に吸引力があるのは、彼から生まれる音の世界がなにか得体の知れないものを生み出している、生み出そうとしているそんな気がするからです。

 

 それは何か、端的に言えば Aquiles Navarro のルーツであるところのパナマの土(生命)、と、今を生きているアメリカという社会の自動化された無機質な世界の間に起きている<自分>を表現することが、何かとぶつかって、何かが生まれているという実感が私に持てているからだと思います。

 

 基本、この作品は Aquiles Navarro のソロ作品なのですが(11曲目「[TE VEO] feat. Christian Contreras」は Christian Contreras のテナーサックスの演奏です。)、トランペットによるソロ演奏ではありません。これまでなら周りに居るはずのバックメンバーがそのまま電子音に置き換わっています。時にリズムだったり、時に周りを覆う闇だったり、時に胎児に聞こえる子宮内の母音だったりします。その音の世界の中を Aquiles Navarro が演奏していきます。

 

 ラフなスケッチなのかもしれません、この作品は。

 

 1曲目「 [NUEVO MUNDO] 」は、メランコリーな曲です。ゆったりしたラテンの幻想的なリズムに乗ってトランペットの音が無機質に響き渡ります。アーバンタッチの曲ですが、どこかロック調にも聞こえるし、

 

 2曲目「 [DONDE] 」は、地響きのような緩やかに乱打する大太鼓の電子音にメロデアンスなノイズが被さり、これまた無機質なトランペットの音が響きます。何かを演奏するというよりは、何かを表現している印象があります。それは無いんかといえば、強いて書くと安心していられる身を置きたい場所かな。

 

 3曲目「 [MUÉVELO] feat. WAVY BAGELS & BOB BRUYA 」は、ベースにBOB BRUYA 、ビートに WAVY BAGELS がクレジットされています。最初にコーラスみたいな節回しが現れそのリズムに乗って、地下を蠢いている太い虫のような音にバチを叩いているような音が重なり、トランペットソロが響きます。こういう音を作りたかったのでしょうね。演奏したいというよりは、音を作りたい、という感覚です。

 

 4曲目「 [RUMBA SATURNO]  」は、けっこうメロディアンスな曲です。

 

 6曲目「 [CÓDIGO]  」遠くで息を伸ばして咆吼するトランペットの音が聞こえ、目の前では藻掻いている人が渦巻きのように回っている、そんな電子音が全体を覆う曲です。ここまでの3曲を聴いているとティル・ブルーナーの世界にどこか相似を感じます。無機質であることやノイズに近い電子音を使うこと、ビートの効いたリズムなど決定的な違いはあるのですが、音楽全体にある趣の雰囲気を醸し出す工夫にかなり執着しているところが似ています。どこかスタイルを求めているのでしょうかね。

 

 コロナ渦で自分の内面を掘り下げた静かな作品なのではないでしょうか。