Lee Konitz『Frascalalto』 | kumac's Jazz

Lee Konitz『Frascalalto』

 2015年11月30日と12月1日に録音されたリー・コニッツの現時点(2018年6月3日)での最新作です。最新作と言っても、今から約2年半前の録音です。私が聞いたその前の最も新しいリー・コニッツの演奏が2013年の東京ジャズでのライブなので、さしあたってそこからの変化の確認ということになるのですが、リー・コニッツの演奏はサイドメンによって微妙に変化するので、時間的な変化はその影に隠れているでの大して意味がないのかもしれません。

 

 現時点でもインターネットで検索すると6月のライブ予定が掲載されていますので、まだ現役で活躍しています。リー・コニッツの演奏スタイルは、自身の中で発生する即興演奏への意欲によって成立している訳ですから、年齢(身体の衰え)は関係ないのでしょうね。

 

 話は少々離れてしまいますが、ここ3ヶ月以上、毎日のように少しずつアンディ・ハミルトン(著)、小田中裕次 (翻訳)『リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡』(DU BOOKS)を読み続けています。とても面白い本なのですが、どうも一気に読む気にさせない本です。というのも、この本を読むと、自分がこれまで聞いてきたジャズとはいったいなんだったのだろう、という自分自身への疑問が必ず発生し、読み続けられなくなるからです。そして、次の日また怖い物見たさで本のページを開く、といった繰り返しなのです。

 

 コニッツは、再三、著者のインタビューに対して答えています。ジャズメンが練習や演奏で身につけたフレーズを組み合わせ、使い慣れた構成でジャズの即興演奏をしているミュージシャンは、それはそれでジャズにおいてはありなのだろうが、自分は気に入らない、と。コニッツは、演奏の中で、次の瞬間、次の瞬間と、常に新しいメロディを作り出そうと考えているということです。こうなると、例えば kumac が好きなハードバップの名盤と言われる演奏や奏者は、みんなジャズの重要な部分の即興演奏をしていないとも言えることになります。

 

 まあ、上記のことは極端な話として考えれば良いのでしょうが、リー・コニッツのジャズに対する自分のスタンスは、明確です。そこで、この作品を考えてみると、録音は本が出版された後で、プロデューサーがドラムのケニー・ワシントンであることから、推測するに、コニッツのインプロビゼーション対する考えを念頭に置いて、できる限りコニッツの魅力を引き出そうとして録音された作品と考えることはできないでしょうか。

 

 その理由は、一つ目、サイドメンはオーソドックな演奏に徹していること。二つ目は、コニッツのボーカルが入っていること。オーソドックな演奏は、曲のリズムとメロディーを安定に保つことで、コニッツが狙う新しいメロディーの模索をやりやすくしているのだろうと考えられます。コニッツのボーカルは、普段、コニッツが自宅で練習をしている時には、唄いながら様々なメロディーを作り出すことを行っていることから、敢えてボーカルを披露することになったのではないでしょうか。この二つとも、上記の本を読まないと kumac にはなかなか結びつかないことです。

 

 長々と、前置きを書いたが、1曲目のスタンダードナンバー「Stella By Starlight」の<コードを開いたメロディー>から始まる演奏は、コニッツの長年のスタイルです。3曲目「Darn That Dream」は、コニッツのボーカルから始まります。メロディアンスなスキャットでメロディーを奏でた後にコニッツのアルトのソロが入ります。とても、しっとりとしたソロです。突拍子もない展開にはなりません。こういう遊びとも言えるようなちょっとした余興は誰でも好きでしょうね。続く、ケニー・バロンのソロは申し分ないです。最後にコニッツがスキャットでソロを取ります。こういうバラードのゆっくりとしたテンポでは、次のメロディーが淀みなく浮かんでくるのだろうと思います。だから、結果的にストレートなメロディックな演奏になるのだろうと推測します。

 

 一曲一曲、かなり明確な意図を持って演奏・録音された作品に感じられます。今のコニッツが好きな人にはとても聴き応えがある作品に仕上がっていると思います。逆に、ケニー・バロンなどのサイドメンの演奏に期待すると、そんなに際だってはいないので大したことではないかもしれません。どうしてこいう作品に仕上がったか、ということを推測すると、とても面白いと思うのですが、どうでしょうか。

 

 直訳すると「新鮮なアルト」となるのかな、この作品のタイトルどおり今のコニッツが、沢山聴ける作品です。

 

 

Frescalalto Frescalalto
1,025円
Amazon