Lee Konitz『Lee Knitz nonet』 | kumac's Jazz

Lee Konitz『Lee Knitz nonet』

 リーコ・ニッツの9重奏団(ノネット)による作品です。録音は、1977年。参加しているミュージシャン個々について、言及する意味は特別ないと思われるので、割愛します。

 

 コニッツは、ライナーノーツ氏(田中英俊氏)によれば、このころ幾つかの9重奏団による演奏の試みを行っているようです。では、自身の演奏の多くを小編成のバンドで行っているコニッツが、ここで9重奏団を編成してアレンジを行い、演奏を試みようとした意図とは、一体どんなことでしょうか。

 

 念頭には、あのマイルス・デイビスの9重奏団の演奏による『クールの誕生』は、置かなくても良いようです。『クールの誕生』を意識してこの作品を録音したとは、とても思えないからです。リー・コニッツに郷愁とか、あのときにやり残したことを再び行いたいという欲求はなかったと思います。演奏、一つひとつに善し悪しの感情はあるのでしょうが、即興演奏を行うことに主眼を置いているコニッツにとって、過去に演奏された作品は、時間とともに消えるだけのことだと考えるのが妥当と思います。

 

 では、この作品の意図はどこにあるのか。アレンジとかアンサンブルには大きな意味はないと思います。要は、演奏を行うに当たって、より明確な枠を作りたかったのではないのでしょうか。この枠とは、端的に言ってしまえば、メロディーということになります。より簡明でわかりやすいメロディーを持った音楽を作りたかったのではないでしょうか。

 

 コニッツが意識しているのは、ギル・エバンスやスーパーサックス、サドメルオーケストラなどビーバップを継承したジャズオーケストラの動きだと思われます。デューク・エリントンやカウント・ベイシーなどのビーバップ以前のオーケストラは眼中にはないようです。

 

 穿った見方をすれば、ジャズにおける即興演奏の原点と言えるビーバップのコード進行に則った自由な演奏を行うために、ここで一度、しっかりとした原曲のメロディを堪能することをしたかったのではないでしょうか。

 

 納められている曲は、全11曲中、パーカーの曲が1曲、コニッツのオリジナル曲が3曲、タッド・ダメロンの曲が1曲、コルトレーンの曲が1曲、演奏に参加しているジミー・ネッパーの曲が1曲、ルイ・アームストロングの曲が1曲、その他3曲となっています。

 

 7曲目、ジミー・ネッパーの曲「Who You」は、とてもソウルフルなメロディラインを持ったステディな曲です。このカチッとした仕上がりの曲のテーマ演奏の後のリー・コニッツのソロは、とても素敵です。コニッツらしさ前回です。この時(今でもそうかもしれませんが)、こういう盛り上がりのある、ある種感情移入しやすいメロディとリズムを持つ曲のソロは、雰囲気を煽ろうとしがちです。しかし、コニッツのソロは、いつものしっかりとメロディーを創造する方を選びます。ブローすることは決してありません。

 

 ですから、対比なのですね。対位奏法を大がかりなバンドで実証的に行ったと言っても、よいかもしれません。方や、メロディーを多くの管楽器(管楽器奏者が6人です。)で提示して、それに対位したソロを行うという試みです。この作品での各人のソロを聴く限り、リー・コニッツだけが突出していますが、コニッツは自身のソロ演奏は極力少なめに行っているように思えます。それだけに際立つと言ってもよいかもしれません。

 

 他のソロ奏者は、いわゆるギル・エバンスのオーケストラにおいて行われるソロといったイメージのソロを取っています。良い演奏ではありますが、この作品でコニッツが意図するものとは違っていると感じざるを得ません。敢えて、コニッツの意図を体現しているのが、5曲目「Giant Step」での Ronnie Cuber とコニッツの二重奏によるソロです。二人とも予め譜面に書かれた同じ音階と音程でソロを行っています。そのメロディラインは、まさにコニッツの意図する音を具現化しています。

 

 ちょっと接近方法に慣れるまで時間を要しましたが、とても洗練された良い作品です。