Valenti Moya『Valenti Maya meets Monk』 | kumac's Jazz

Valenti Moya『Valenti Maya meets Monk』

 マニューシュジャズ(ジャンゴ・ラインハルトに代表されるスペインのロマ民族のギターによる伝統的な演奏方法)によるセロニアス・モンクの楽曲集です。といっても、全10曲中、Valenti Moya のオリジナル曲が2曲入っています。弦を掻きむしるような硬い音が狭い空間に響き渡る感覚があります。そういった臨場感が、新鮮なジャズです。ギターによるフラメンコの伴奏において、踊り子である主役をセロニアス・モンクに置き換えたようなものですかね。

 

 ただし、フラメンコはスペイン南部で盛んですが、ロマ民族のギターによる伝統的な演奏方法はスペイン北部の音楽です。両者の違いは、詳しくは分かりません。誤解を怖れずに書けば、似たような音楽が流れるということは同じですが、アングラ演劇と路上ミュージックの違いみたいなものでしょうか?

 

 Valenti Moya もちろんスペインのギター奏者です。彼のサイトを見ると、スペイン国旗、カタルーニャの国旗、それにイギリスの国旗が掲げられ、それぞれからその言語のページへのリンクが張られています(イギリス国旗は英語表示ということですが、リンクは切れています。)。わざわざカタルーニャ語のページ(インデックスページはありますが、スペイン語のページはコンテンツがあるのですが、カタルーニャ語のページにはコンテンツがありません。)を作るということは Valenti Moya はスペイン北部で、カタルーニャ地方出身ということでしょうか。詳細は、分かりません。

 

 この作品の一番の聴き所は、Valenti Moya がモンクの音楽をどのように解釈し、演奏するかということだと思います。確かに、マニューシュジャズ自体が珍しく、面白いということはあるのでしょうが、それは当然のこととして聴いてゆくことが必要だと思います。

 

 セロニアス・モンクの音楽は、幾つかの際立つ要素を持っています。一つは、何度聞いても飽きない郷愁を持って親しみやすいメロディ。一つは、命の根源を感じさせる沸き立つリズム感。一つは、独特の和音の使い方。その要素は、どれも一体となっているので、どの要素も欠かせないでモンクの曲を演奏すると結局はモンクの物まねになってしまうというジレンマが生じます。

 

 今、リー・コニッツの本を読んでいるのですが、その中にトリスターノは多くの人に音楽理論教えたが、誰もトリスターノに似た演奏をしなかったけど、チャリー・パーカーは誰にも自分の演奏理論を教えなかったが、多くの人がパーカーを真似た演奏をした。と書かれています。モンクも、どちらかと言われれば、後者なのでしょうね。

 

 肝心のこの作品に収められている演奏です。

 

 上記に敢えて取り上げたモンクの三つの要素のうち、この作品ではモンクが提示したメロディを消化した作品に仕上がっています。ですから、不協和音とか、ダンスミュージックに通じるモンク独特の間の取り方は、この作品に期待はしないことが肝心です。

 

 モンクの代表的な曲「Round Midonight」が5曲目に納められていますが、フランスのミュゼットのような演奏です。主旋律をアコーディオンが担い、どこか歌謡的な雰囲気の中で Valenti Moya がギターソロを加えてゆきます。緊張感がある演奏というよりも親しみ(日本人の kumac にとってはどこかエキゾチック)のある演奏です。

 

 次の6曲目は「Epistrophy」。曲の中に現れる緩急のあるリズムを巡って、演奏者が互いにソロをとりながら輻輳する感覚が素敵な曲ですが、Valenti Moya はストレートに弾いています。

 

 Valenti Moya が、鼻唄交じりにモンクの曲を演奏したらこうなったという印象の作品ですね。気軽に聴けて、なおかつ音が新鮮です。とても面白い作品です。