Lee Konitz『Figure & Spirit』 | kumac's Jazz

Lee Konitz『Figure & Spirit』

 1976年の録音。メンバーは、リー・コニッツの(as)、テッド・ブラウンの(ts),

アルバート・デイリーの(p)、ルーファス・リードの(b)、ジョー・チェンバース(ds)というクインテット編成です。録音がとても鮮明です。それだけに、リズム隊の粗さも目立ちます。

 

 この時期、コニッツは主戦場をヨーロッパに求めていました。母国のアメリカでは時はエレクトリックジャズ、ロックと融合したフュージョンと呼ばれた音楽が主流で、コード進行に基づきアドリブを展開するいわゆる楽器をインスピレーションで操る有機的な、あるいは無機的な音の羅列に時代の要求が離れていった時期です。

 

 そんな中、アメリカでもオーソドックスなモダンジャズをなんとか復活させたいという人もいて、この作品のプロデューサーであるガス・スタティラス(ライナーノーツ氏曰く『カフェ・ボヘミアのジョージ・ウォーリントン』も世に出している)もその一人だったようです。それで、トリスターノ派のサックスプレーヤーのリー・コニッツとテッド・ブラウンの双頭での演奏を果敢にこの時期に録音したわけです。

 

 演奏は、至極大人しいものです。奇をてらったことはなく、形の整ったトリスターノ派の演奏をしています。どこにも世間に媚びる表現は見いだせません。その代わり、自分たちの演奏を真摯に展開しているということです。

 

 正直、演奏にあまり面白みは感じられません。理由は明らかです。バックのリズム隊が陳腐なんですね。ただ、ビートを刻むだけで、コニッツやテッド・ブラウンの演奏を刺激する場面がほとんどありません。特にベースは酷いです。音の強弱や選び方が平凡です。多分、この時期、ドラマーやベースで才能のあるミュージシャンはこのようなオーソドックスなジャズの演奏にはあまり興味がなかったのではないでしょうか。結果、優秀なリズム隊を集められなかったのではないかと思います(勝手な憶測です。)。

 

 ピアノのアルバート・デイリーは、頑張っていると思います。そして、コニッツとテッド・ブラウンのアドリブ演奏を聴いている分には申し分ないと思います。コニッツは、ほとんどの場合、まったく自分の主張を曲げない演奏をしますから、ハズレはありません。テッド・ブラウンは、あまり癖のない演奏です。完全に、急増のセッションという印象の作品ではあります。

 

 一番良い演奏は、最後の「Feather Bed」ではないでしょうか。この曲は、「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・ホーム・トゥ」のコード進行でテッド・ブラウンが書いた曲とライナーノーツ氏は書いていますが、確認の演奏は見事です。最初はテッド・ブラウンのソロですが、格好いいです。トリスターノ派の真骨頂を見せてくれます。要は、無機質なんですね。淡々としていて、なおかつエネルギッシュなんです。この意思を感じされせる矛盾をはらんだ演奏がトリスターノの薫陶を受けたミュージシャンの最高に評価される点ではないかと思います。一聴して地味なのですが、その先にとても大きな世界が広がっている気がするのです。コニッツの演奏も、自由自在にコード進行に沿ってアドリブをしています。白眉の演奏です。