Mike Nock Quartet『IN OUT AND AROUND』 | kumac's Jazz

Mike Nock Quartet『IN OUT AND AROUND』

 ニュージーランド生まれで、アメリカで活躍し、今はオーストラリアを主な拠点として活動しているマイク・ノックが、マイケル・ブレッカーを主人公に迎え、1978年に録音したカルテットの作品です。演奏者のクレジットには、フィーチャリングマイケル・ブレッカー、ジョージ・ムラーツ、アル・フォスターと3人が書かれています。その3人にピアノのマイク・ノックを加えてのカルテットになります。

 

 マイク・ノックは、東京ジャズで、ジャズ評論家の小川隆夫との対談を聞きました。そのとき、彼の演奏はなかったので、実際に生を見たことはありません。しかし、そのときの話から興味を持ったこと、それと、ピアニストであるハクエイ・キムの先生であったことから、何枚か彼のCDを聴きました。

 

 印象は、音が<シンプル>ということです。それと、マイク・ノックがロックを取り入れた演奏をしていた時期があり、ジャズ慣れした音ではなく、新鮮みのあるメロディが、kumac にはとても親しみやすい印象を持ちました。

 

 そして、この作品です。マイケル・ブレッカーは、kumac が考えるに、コルトレーン亡き後の最も重要なテナーサックス奏者と判断しています。それは、どういうことで断定するのかと言えば、まず正統なテナーの流れを引き継いでいること(かなり研究して、練習して身につけているという意味です。)、その上で新しいインプロビゼーションとしての音を追求したこと、実際にジャズの歴史において無視できない作品を幾つも作り出していたことからです。

 

 その二人が、1978年に吹き込んだ、マイケル・ブレッカーにとってかなり初期の時期の作品ということであれば、聴かないわけにはいかないわけです。

 

 総じて、幻想的な曲調の作品が多いです。この辺は、マイク・ノックがやりたい音楽を行っていると理解して止さそうです。マイケル・ブレッカーはあまり自己主張はしません。どちらかと言えば、マイク・ノックは、マイケル・ブレッカーの才能を欲しかったのではなく、表面的な音をアクセントとして欲しがっていたように感じられます。この叙情性は、ハクエイ・キムの音のセンスに共通性を感じます。

 

 正直、マイケル・ブレッカーに焦点を当てて聴くと、ハズレと思うかもしれません。

 

 例外もあります。最後の表題曲「In Out and Around」は、早いパッセージのメロディを持つ曲です。ここでのインプロビゼーションは、後のマイケル・ブレッカーを彷彿と感じさせる魅力を持っています。最初のソロをマイク・ノックがとりますが、そのソロはあまり既成概念に囚われない、音の選び(飛び方)をしています。それは、多分、,マイケル・ブレッカーにとっても刺激的な音ではないかと思います。それを受けてのマイケル・ブレッカーのソロがどういう演奏を行うのか、とてもワクワクとする流れとなっています。どこか、マッコイ・タイナーを思わせるマイク・ノックのフレーズです。マイケル・ブレッカーのソロは、ちょっと舌足らずです。多分、自分のイメージの音を出せないで藻掻いているのではないでしょうか。それでも、精一杯のインプロビゼーションを展開していると思います。その、苦しさがとても面白いです。音の感覚が壮大です。とても、広がりを感じます。

 

 この手の演奏は、冒頭の1曲目「Break Time」でも同様なのですが、「Break Time」は、最初にマイケル・ブレッカーがソロを行います。そのソロに対して、かなり執拗にマイク・ノックがバッキングで応えます。言ってみれば、独りのソロではなく、二人で掛け合いのソロを行っているものです。多分、この曲がこの作品の中での一番の白眉なのではないでしょうか。マイケル・ブレッカーも凄いぶっ飛んだソロを吹いています。マイク・ノックのソロに移ると、バッキングは消えて、マイク・ノックのピアノの音だけで進行します。この演奏は、マイク・ノックの持つ最初に書いた<シンプル>という音です。

 

 やはり、マイケル・ブレッカーはいいですね。そして、とても面白い作品です。