Teddy Wilson『And Then They Wrote..』 | kumac's Jazz

Teddy Wilson『And Then They Wrote..』

 テディ・ウイルソンが、ハードバップがまだ勢いを持っていた1959年に録音したピアノトリオ作品です。ジャズの流行とは一線を画した、とても穏やかなスイングスタイルの作品集です。

 

 副題が、Plays the Great Songs Composed by Great Jazz Pianists とクレジットされているように、納められている曲は、すべて過去の偉大なピアニストが作曲したスタンダードと言える作品です。

 

 その偉大なピアニストとは、

 

 ジェリー・ロール・モートン

 ジェームス・P・ジョンソン

 ファッツ・ウォーラー

 アール・ハインズ

 デューク・エリントン

 カウント・ベイシー

 セロニアス・モンク

 スタン・ケントン

 ジョージ・シアリング

 エロール・ガーナー

 ディブ・ブルーベック

 

 となります。

 

 kumac が生で演奏を聴いたことがあるのは、アール・ハインズのみ。さらに、これまで、記録された音源だけからでも、まともに聴いたことがあるのは、デューク・エリントン、セロニアス・モンクとディブ・ブルーベックぐらいです。

 

 ジャケットがいいですね。一曲ごとに、その作品名と作曲者であるピアニストの名前をまったく違ったアルファベットのフォントでデザインして載せています。この書体をすべて言い当てられる人はまずいないでしょうね。

 

 例えば、最初のジェリー・ロール・モートンの「King Porter Stomp」は、曲名がエングラバースシェードという銅版彫刻系活字で字の中にこまかい万筋がはいっている書体(大文字しかない)が使われています。そして、JELLY ROLL MORTON という名前は、同じ銅版彫刻系書体のエングラバースボールド(ちょっと縦長ですけれど)が使われ、同じ書体系で統一感を出しているのと、銅版彫刻系書体は、公式な行事で使われる書体なのでどこか気品が感じられます。

 

 後に筆記体から派生した小文字などを使わずに、正式な大文字のみの書体を使っていること、そして最初の曲であることから、如何にテディ・ウィルソンがジェリー・ロール・モートンに対して畏敬の念を持っているかが分かります。

 

 自分の曲と名前については、さりげなくサンセリフ系の細い線の書体を使っていることから、謙遜の意味が込められていると考えられます。

 

 文字のことを話してしまいましたが、そのように一曲一曲、丁寧に演奏されています。スイングスタイルの演奏ですが、指のタッチはとてもゆったりとして、一音一音に気持ちを込めた録音であることが感じられます。特に、際だった作品ではないとは思いますが、細部まで丁寧に作り上げられた作品であることは十分に伝わってくる、気品ある作品です。