Thomas Maasz『Thomas Maasz Trio』 | kumac's Jazz

Thomas Maasz『Thomas Maasz Trio』

 オランダのピアノトリオです。元々は自主制作の作品で、それを復刻したものを手に入れて聴いています。ですから、今(2016年12月)から数年前の録音かとも思われますが、詳細は不明です。それは別にして、若手の新しい感覚のジャズのピアノトリオ作品です。

 

 ちょっと、言葉で説明しようとすると、捉えどころが無い印象を持ちます。大抵は、初めて接するミュージシャンの場合、ジャズにおける楽器ごとにどの系統とか、誰の影響下にあるかとか、そういった常識的なことから探りを入れて、音楽を聴いてゆくうちに、こういう他のジャンルやそ土地の伝統的な音の癖を拾ってゆくのですが、ちょっと捉えどころが無いです。

 

 別な言い方をすれば、kumac の既成概念では括れない音です。

 

 全体としては、マイナー調の感情的な起伏の少ない、ミデアムテンポ主体のヨーロッパのクラシカルな洗練されたデリケートな音です。こう書いても、皆目見当が付かないと思いますが、その退屈な時間の中に、時々、ポッと聞き慣れたというか、安心させるメロディーが入り込んでくるのです。そのタイミングというか、訪れる瞬間が、ちょっと定番なスタイルではないのですね。意外性を持っています。だから、どうしてこんな演奏をするのだろうか(できるのだろうか)と思ってしまいます。

 

 5曲目のスタンダード「Don't Explain」は、まっとうに弾いています。どても情緒豊かで、聞き惚れてしまいます。ジャズに対しては、しっかりとした受容の器を持っているミュージシャンと思われます。他にも、「All The Thing You Are」や「Skylark」などのスタンダードを、敢えて自分の名前でアレンジとクレジットをして演奏しています。その曲を聴くと、前出の「Don't Explain」はちょっと違う(癖のない演奏をしていて)のですが、他のオリジナル以外の曲はテンポや主旋律の音の選び方をかなり自分流に変化させています。その変化の方向は、「アンチ・・」といった印象を受けます。Thomas Maasz の個性が出ているというよりは、まだ「敢えて」逆らっている印象です。だから、穏やかですが、フリーフォームに近似した印象を持ちます。

 

 こういう音に耽美的な快感を持っているのかも知れません。美しいといえば、美しいです。壊したりは決してしません。7曲目のオリジナル「Tant Bien Que Mal」は、とても静かで、美的感覚が研ぎ澄まされた、あまり甘くもなくて、気持ちよい曲です。

 

 あっさりともせず、かといって情熱的でもなく、さりげなく、そしてちょっと反抗的な音でしょうか。色んな可能性を感じさせる作品です。