Franco Piccinno『Migrations』
2014年10月録音。イタリアのピアニスト Franco Piccinno のトリオ作品です。録音から発売まで1年半以上の時間がかかっています。この時間のズレが何を意味するのか、さしたる意味がないのか、判りませんが、なんとなく気になります。
どうして最初から、どうでもよい話をしたのかと言えば、最初に聴いた印象が、<時間>というものを感じさせたからです。よく、生活していて感じることですが、時間が早くすすむ、とか。時間が進むのが遅いとか。そういうところで、この作品は「時間が進むのが遅い」という感覚を第一印象として持ったのです。
別な言葉で表現すると、<重厚>な音の響きです。メロディー自体もいたってシンプルで癖のある、妙に自己主張をするような癖は感じません。他のジャズミュージシャンで言えば、ブラッド・メルドーのような演奏です。メルドーのタッチは羽の生えたように軽いのですが、Franco Piccinno は至って正統な弾き方をしていると思います。
音をなぞるような弾き方はしていません。どの音も、明確な自己主張を伴っています。だから、落ち着いて聴けます。心地よいとさえ言えます。安心できる、そんなことを言いきっても良いかもしれません。破綻はありません。
情感は豊かです。だから、ジャズ的な雰囲気作りにはもってこいの作品だと思います。でも、けっしてイージーリスニングの代替えにはならないと思います。聴いていると、音の連なりに引き込まれる危険姓があるからです(褒め言葉です)。
現代のヨーロッパのメインストリームジャズの範疇にあきらかにずっぽりと入る作品だと思いますが、個性を際立たせないところがいいです。かといって、凡庸には感じられない、どこか新鮮な響きを持ちます。この辺りの印象が、時間を感じさせるものかなと思います。それは、即時性を感じるからだと思います。時代を共有しているなという演奏です。それは、善し悪しですが、これ以上突き詰めて考えると、ことが複雑になるので、そもそもジャズから離れてしまいます。
ということで、意外に手応えのある作品です。
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