Daniel Zamir『Forth and Back』 | kumac's Jazz

Daniel Zamir『Forth and Back』

 このCDタイトルの『Frorth and Back』という言葉は、ジャケットには書かれていない。では、どこにあるのか?それは、ジャケットを覆うビニールの包装に貼られている、普通、「New!!」などと書かれている宣伝文句のようなの丸いシールに何気なく、書かれている。だから、聴こうとしてシールを剝がしてゴミ箱に捨てると、どこにもタイトルが見当たらないことになる。強いて言えば、ダニエル・ザミールという名前だけが残る。

 

 解釈は、こうだ。聴こう(意思が前に進む:Forth)として、行動(ビニールをを破り捨てる)すると(立ち止まる:and)、期待したもの(自分)がない(ない)、そこで戻る(自分ってなんだろうと過去を考える:Back)。

 

 作者の意図とは全く関係の無い変なことを書いたが、表現としてはベーシスト、アヴィシャイ・コーエンのジャズに対する接近の仕方に共通項を見いだせるイスラエル出身のソプラノサックス奏者、ダニエル・ザミールの作品を聴いて、謎解きを最初にしたくなった。

 

 イスラエルのミュージシャンを色眼鏡で見ようとは思わないが、彼らの表現の根にある精神に近づこうとすると、このようなブルース(土着性)に出くわす。先日、聴いた梅津和時が演歌調のブローをジャズ、アルトサックスで行わざるを得ない状況に陥ったことと、完全に相通じることを考えざるを得ない。

 

 単純な言い方になるが、エルサレムが三つの宗教の聖地であるように、この音楽にはアラブとユダとイエスの元となる血が完全に流れている。それが、彼らのブルースだ。

 

 ジャズとしての要素だけで聴くと、心地よいソプラノサックスの音です。展開(アドリブ)も見事だし、ストレートで情熱的でかっこいい(現代的、ロック的要素を持つ)です。だから、あまり、最初に書いた音楽とは関係の無い話を、先入観として持つ必要はないと思う。純粋にジャズとして楽しめる作品です。

 

 ソプラノサックスで、ここまで朗々と吹く作品を kumac はこれまで聴いたことがない。アヴィシャイ・コーエンにも通じるかも知れないけれど、楽器を、音色を操るということでは見事としか言いようがありません。

 

 5曲目「Two」は、どこか e.s.t. を思わせる郷愁がある。それは、現代的な感覚(ロック、民俗性、デジタル化などです。)が染みているということですが、若い世代が熱狂的になるということでは欠かせない要素になっているけれど、そこがワンパターンに陥るコマーシャル化(つまり、世の中に認められるという点で今の世の中に欠かせないこと)という危険姓を孕む。こういう方向に音楽(ジャズ)が動いていることは、多分、一過性の流行と思った方が良い(最低、四半世紀単位で考えると)。

 

 だから、これからどうなるかと考えると面白い。

 

 2015年1月録音。

 

 

FORTH & BACKFORTH & BACK
1,982円
Amazon