John Lewis『Evolution』 | kumac's Jazz

John Lewis『Evolution』

 もし、私がMJQのアルバムでどれを聴いたらよいか尋ねられたら、迷わずにラストコンサートをその方には推薦します。理由は、もちろん、「(MJQの作品で、自分が聴いた中で一番良い演奏だから」となります。では、何が良いのだろうか?まずは、何度聴いても飽きないこと。次に、演奏に一体感があること。そして、一人ひとりの演奏を取り出したとしても、すべてソロ演奏として成立していること。さらに、演奏を演奏者自身が楽しんでいることが伝わってくる。それとともに、一発勝負の緊張感が存在する。演奏一曲、一曲ごとにメリハリがある(バラードはバラードらしくしっとりと、リズミカルな曲は空高く弾むように・・・1曲の中でも抑さえるところは静穏に、はじけるところはお茶目に、という具合)。最後に、録音が最高にクリアです。

 ジョン・ルイスのことを書こうとして、MJQのことから始めてしまう、ありきたいりな導入をしてしまっているけど、ラストコンサートの良さを列挙しましたが、kumac は、その良さを際立たせる大事な要素があると思っています。それは、室内楽だから、ということです。多くのジャズの演奏は、コンサートホールやライブハウスなど室内で演奏されるので、室内楽というのは当然、と考えますが、kumac が際立つ要素として取り上げた<室内楽>は、<制約>といってもいいかもしれません。例えば、俳句や短歌のように、定型のある文学のことを想像していただければ、なんとなく分かるかも知れません。その制約、俳句で言えば、季語や五・七・五の文字の制限などです。俳句でも自由律俳句や無季語の俳句がありますが、そしてそれを否定することはないと思っていますし、自由律俳句の中にも素晴らしい作品があります。

 これ以上書いて行くと、本題から限りなく外れるので、ここいらでこのジョン・ルイスの作品『Evolution』に戻ります。まあ、ジャケ買いですね。というのは、ジョン・ルイスの作品をこれまで幾つか買いましたが、さほどに良いと思ったものはありませんでした。なので、今回、きのCDをどうして買ったのかという説明は、ジャケ買い以外の動機はないということになります。それと、若干、ソロピアノ集(それも、「クラシック」という言葉がどこにも見当たらなかったことも、今思えば、買っても良いかなと思った理由かも知れません。)ということも食指が動いた理由の一つです。

 結果、素晴らしい作品です。ジョン・ルイスのジャズに対する前向きなアプローチが聴くことができます。有名なスタンダードナンバーが多く収められていますが、その曲の解釈も面白いです。例えば6曲目の「Django」は、流れるような旋律をわざとぶった切って、曲の持つ緊張感を、裏の裏をかいて、消しています。ほとんどの人は、どんなメロディーか知って聴くはずです。次に、どんな旋律が流れてくるか分かっているはずです、だから小細工の使用がないところを、旋律の流れを切ることで、聴く人の先入観を裏切って、次への期待を持たせます。その時点でも、もう曲本来の持つあのメロディーの密度の濃淡を違う方向から光を浴びせ、違う色彩に変えています。そんなに大胆に変わる訳ではないです。曲のメロディーから外れるようなことはしませんから、だからこそ面白いとも言えます。その後の曲の展開も、MJQからの演奏に通じる手法を持ちながら、ジョン・ルイスの個性で全体を覆う作品に仕上げています。

 そんな感じで、どの曲もとても楽しめました。

 あとは、ジョン・ルイスの呻き声が聞こえるところが最高ですね。

エヴォリューション/ワーナーミュージック・ジャパン

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