Andrea Cali『Take The Line』 | kumac's Jazz

Andrea Cali『Take The Line』

 1986年生まれのイタリアのピアニストの初リーダー作。メンバーは、Andrea Cali の(p)、Christian Pepe の(b)、Simone Sferruzza の(ds)。四つ折りのジャケットを広げるとCDボックスの大きさの4倍の面積全体に屈託なく笑う Andrea Cali 顔を大写しにしたの上半身の写真が現れる。処女作で、「どうだ、俺の音楽は最高さ」と言わんばかりのこの自己主張は、なんか頼もしいです。そして、透明なプラスチックのCDボックスの枠にはめ込まれた彼のポートレート写真は、どこかおどけているのだろうか、鬼才の画家ダリを彷彿とさせる狂気じみた眼の動きをしている。ダリとカリを引っかけたわけではないと思うけれど、この作品のコンセプトを表しているような気もしないではないです。

 冒頭「Why Are You Looking At Me ?」は、直訳すれば「あなたは、どうしてわたしを見ているの」となるわけで、それは冒頭に書いた写真が物語る謎かけのようなものなのかもしれません。意訳すれば、「わたしの音楽はどうでしたか」と問いかけているような気もします。この「Why Are You Looking At Me ?」は、彼、Andrea Cali の最も聞いて欲しい曲ということになれば、<異才を放つ>と言ってもいいかもしれません。そう、ダリとカリの関係です。

 どうしてかと言えば、その抽象的かつ耽美的かつ攻撃的な音とピアノのタッチは、かつてあまり聴いたことのない(kumac の狭い知識で言えば、「イタリアのピアニストとして」は、です。)ものだからです。どこかブルジーでもあるし、セシル・テーラー的な音のパズルの組み合わせといった音の匂いもするし、ロマンチックではないけれど乾いた情感がある、ちょっと不思議な演奏です。一番に似合う表現で言えば、「小気味よい」ということかなと思います。この表現は、かつてヨーロッパのピアニストには、あまり感じなかった感覚です。

 その流れは2曲目「lennie's Pennier」にも引き継がれます。曲名の通り、レニー・トリスターノの曲です。始まりは、コニッツの「モーション」を彷彿させるベースの無機質で整然としたビートが効いた冷淡で情熱的な演奏を聴かせてくれます。面白いです。全体的には、トリスターノをなぞった、ということなのだと思います。

 で、最初の2曲まででしょうか。鬼才らしき言葉をかけても良いと思うのは、次の曲からは、ああヨーロッパのピアニストだと確信を持たせるクラシカルなそして情緒的な演奏に入ります。3曲目「Ultina Piggia」はエンリコ・ピエラヌンツィを思い出させる曲調です。

 が、ここでこのアルバムのコンセプトが理解できたような気がします。それは、全8曲の曲の並びが、オリジナル→他人(歴史に名を残しているジャズミュージシャン、あるいはスタンダード)の曲、という並びになっているのです。そして、オリジナルは、次の曲に対する Andrea Cali の挑戦(俺だったら、こういう演奏をするが、どうだい?)という理解が可能なのです。ですから、音楽性で言えば、ややもするとカメレオン的な捉えどころの無いものとなっている(曲によってイメージが変わる)のです。他人の曲自体、彼が演奏して表現しているので、個性が強く出ている作品であることに違いはありません。

 ですから、3曲目のエンリコ・ピエラヌンツィ的情緒は、スタンダード曲の4曲目「If I Should Lose You」に照応し、5曲目の「Let Be」は、6曲目のビル・エバンスの「Five」に照応するわけです。7曲目は、オリジナル、そして8曲目はそれに照応するチック・コリアの曲です。

 そうやって勝手に解釈して聴くと、とても面白いです。

 この後の、Andrea Cali の成長を見続けたくなりますね。いやあ、本当に面白いです。






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