Halperin-Hyberg Connection『Snow Tiger』 | kumac's Jazz

Halperin-Hyberg Connection『Snow Tiger』

 スェーデンの若いギター奏者、Pal Nyberg が レニー・トリスターノに師事したテナー奏者、ジミー・ハルペインと合作した作品です。録音は、2015年1月。iTunes の読み込みによる表記では、Pal Nyberg の作品にジミー・ハルペインをフィフィーチャリングという表記になるので、主体は Pal Nyberg を中心とした若い演奏者の作品に、ベテランのジミー・ハルペインをゲストで招いたということなのかも知れません。

 CDのジャケットのミュージシャンの集合写真を見る限り、ジミー・ハルペイン以外はみんな30歳前後の若いミュージシャンです。とにかく、あまり情報がありません。

 実際の音の中身は、ジミー・ハルペインのテナーを前面に押し出した演奏が全篇続きます。最初に、レニー・トリスターノに師事したと書きましたが、まさしく演奏はトリスターノ派のそのものです。その証拠に、収録されている全11曲中、トリスターノの曲が3曲、コニッツの曲が2曲、ウォーン・マーシュの曲が1曲あります。そして、他にジミー・ハルペインの曲が2曲ありますが、それ自体トリスターノ派の流れを汲んだメロディー感覚に淀みない無機物感を持ったものです。まったくもって、冷蔵の蒼白の世界がそこに展開されています。

 トリスターノ、コニッツやマーシュが好きな方にとっては、涎が垂れてくる感激の作品です。ということは、kumac にとってはとても心地よい至上の音楽ということです。こんな雪の降り積もる冷え冷えとした土曜の朝に、このヒンヤリする肌触りを持つ音を聴かせられる、それも新しい録音として、聴けるのは、とてもぞくぞくして、鳥肌が立ちます。とても、嬉しいです。

 面白いのは、リーダーとおぼしき、ギターの Pal Nyberg が作曲した曲が1曲ほど入っているのですが、それが他の癖のある曲と違和感なく溶け合っているのはもちろんですが、しかし、明らかに異質な曲です。

 メロディーラインが甘くて、明瞭で、歯切れに良い作品です。それだけで、違いが一目瞭然、分かるのですが、この曲は他の曲と違って、ソロは Pal Nyberg が最初に取ります。そして、ベースのソロが入り、ジミー・ハルペインが締めます。とても、美しい曲です。北欧らしい、透き通った音の伸びが放物線を綺麗に描いています。どうして、この曲を入れたのか、うがった見方ですが、 Pal Nyberg がこの曲に「Siri」という題名を付けています。これは kumac の思い込みかも知れませんが、Appleの iOS に入っている人工知能もどきの音声サービス Siri と関連性があるのではないでしょうか。

 つまり、「なにか、トリスターノの曲を演奏してみて」と、Siri にお願いしたら、こんな曲になったという現代的な解釈といっていいのかなと思います。この演奏から察するに、Pal Nyberg は、トリスターノ派の演奏を主体としている訳ではなく、いろんな可能性を秘めた奏者ということだと思います。だから、彼の他の作品では、また違う面を聴くことができると思います。

 それはさておき、最高の演奏は9曲目トリスターノの曲「Leave me」です。これは、言い切ります。とてもパッセージの速い曲です。そして、切れ味が鋭いどいです。ちょっと触れただけで、皮膚が切れて、血が噴き出しそうなスリル感。緊張感があります。

 そして、テナーのジミー・ハルペインの演奏の白眉は、10曲目「Subatomic Dominant」ではないでしょうか。これ、彼のオリジナル曲です。思う存分、テナーを吹いています。ジミー・ハルペインは、コニッツの自由さとマーシュの窮屈さのちょうど中間でしょうか、中間と書くとどっか中途半端という印象を持たれますが、そうではなく誰にも似ていないし、強いて喩えるならば、トリスターノ派から派生してドルフィーに近い演奏スタイルを確立しているということです。

 最後に、ギターの Pal Nyberg の演奏について、触れておきたいと思います。11曲目のボーナストラックと表記されているスタンダードナンバーの「How Deep Is The Ocean」の演奏を聴くと、オーソドックスなシングルトーンホーンライクな演奏をしてくれるギター奏者です。どこか、間延びしたギター奏者が多い北欧のジャズ。ギタリストとはちょっと一線を画すかもしれません。ヨーロピアンジャズの指向というよりうは、かなりジャズのメインストリームを押さえたスタイルを持っています。とても、好感が持てます。


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