中川ワニ『Nakagawa Wani Jazz Book』 | kumac's Jazz

中川ワニ『Nakagawa Wani Jazz Book』

 とても面白いジャズの本に巡り会いました。もっと正確に、kumac がこの本に出会って、読んだときの感情を表現すると、「うわ!なんて楽しい(本な)んだ!」、「飛び上がるほど、俺、嬉しい!」、「そうそう、そうだよね。」、「ウォー、いいなぁ」、「アヒャ-!」、「全く同感」、「えっ、こんな世界もあったんだ」。

 てな、感じです。

 要するに、すごく面白いです。

 中川ワニ氏は、珈琲豆の焙煎を業としています。この本では、珈琲焙煎人と書かれています。お店も持っていまるようですが、全国各地を旅をして、美味しい珈琲の淹れ方を伝授している(?)方です。そこまでは、私も知っていました。なんとなく、ですが。その方が、どうしてジャズの本?となるのですが。

 珈琲豆の焙煎業とジャズの関係は、とりあえず、全く関係ない、ということだと思います。

 この本は、中川ワニ氏のジャズのCDの聴き方を、日常の生活に溶け込んだ独白的な描写で表現したエッセイです。

 じゃあ、何が面白いのかというと、やはりその聴き方なんですね。

 中川氏は、「現代ジャズ」を聴く。「現代ジャズ」とは何か?。それは、中川氏は「1990年代から現在までのジャズ(ジャズのCD)」と書いています。そして、その聴き方が、ジャズの系譜をまったく無視しているのです。

 例えば、「現代ジャズを聴くとは、ピアノトリオのCDを聴くことである。」と書き、その上で「ピアニストのでビュー作品は必ず買う。」と書いています。評判など、まったく気にしないで、知らないミュージシャンでも買います。その上で、当たり外れもあるわけですが、そういう聴き方をしていると、中川氏にしかわからないジャズの魅力が見えてくると思います。時には、人になかなか伝わらないかも知れませんが。

 中川氏は、文章から察するに、最初はジャズのLPを大分聴いたようです。ですから、基本的なジャズの名盤、珍版はほとんど所持して聴いたと思われます。だから、当然にジャズの系譜は十二分な知識を持ち、ご承知だと思います。

 その上で、今、かなり乱暴な、荒い、ジャズの聴き方をしているところが、凄いです。

 この本は、文章はさほど量的には多くありません。見開き2ページに文字数として約400文字程度です。ランブル(ページ数)振られていない本なので、全部で何ページあるのかわかりませんが、文字の代わりに、CDのジャケットがカラーでいっぱい載っています。全部でざっと560枚(約百枚ぐらいさば読んでいます)あると思います。

 これまた凄いのは、この中に、いわゆるジャズの名盤、名盤でなくてもある程度評判になったものは、多分、一つも無いと思います。kumac も、その中で、自分が聴いたもの、持っているものは、たった5枚ぐらいだけです。ジャズのCDの買い方としては、最近は金欠で、けっこうな値段がする新譜を買っていないのですが、kumac もどちらかというと評判を気にせずにCDショップに行って、知らないミュージシャンの新譜を買う方なのですが、それでも中川氏の買ったCDと合う確率は1%しかないのです。

 kumac がこのブログで知り合った方は、結構、マニアックな新譜を聴かれる方が多いのですが、それでも約560枚の内、どれだけの枚数を共通に聴いているのか、あまり多くはないのではないでしょうか。ジャズのCDなんて、沢山の新譜が毎日世に出ているということなのでしょうが、その果てしない(と思ってしまう)海の中を、どんな座標軸で航行するのか、ひとそれぞれで、でも同じ感覚の人に出会うと、なんか嬉しくなります。

 最後に、この本と縁を感じることを幾つか書かせていただきます。

 一つは、金沢で一番に kumac が気に入ったジャズ喫茶が、「穆然」です(1回しか行ったことがありませんが)。中川氏は金沢出身で、この「穆然」の常連さんのようです。

 一つには、この本の出版元が金沢の「あうん堂」のあうん堂本舗です。あうん堂は、なかなか手に入らない能登和紙の原稿用紙を送っていただいたりしたことのある古本とカフェの店です。

 こう書いちゃなんですが、評論や伝記やオーディオや入門関係の本を除けば、村上春樹のジャズの本と完全に双璧を成すジャズの本(装丁や編集も含めて)だと思います。村上春樹のジャズの本を、コアラとすれば、中川ワニ氏の本は、ユーカリの葉っぱでみいなものかもしれません。どちらもないと、この世の中にコアラは存在できないです。

 ちなみに、この本は、かのアマゾンでは購入できません。売り切れ(絶版)でもないようなので、この点でも村上春樹のアマゾン対策と双璧を成すかもしれません。

 唯一、kumac がどうしようもなかったのは、苦手なボーカル(特に女性物が多い)物が多いということでしょうか。でも、聴きたいと思った女性ボーカルの人の名前が、頭の中に幾人かインプットされました。


 最後に、最後にと書いておきながら、最後の最後です。関係ないと書いておきながら書くのは、どうかと思いますが。中川氏のジャズと珈琲焙煎の関係ですが、一言で言えば「感性」の問題かと思います。如何に、集中して感性を研ぎ澄ますことができるのか。その勝負です。

 珈琲の香り、味を確かに受け止めるには、感性を持つことが大事な要素になります。

 先入観なくジャズを理解するためには、メロディーやリズムや間を感じ取る、これまた感性が大事です。


nakagawawani


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